サービスデザインとは?誰よりも分かりやすく解説

このページにたどり着いたあなたは、きっと「ユーザー視点に立って自社の商品やサービスを差別化したい」「単にモノを売るのではなく体験を提供したい」という課題や興味をお持ちではないでしょうか。

サービスデザインは一言で説明するのが難しい概念です。例えば、経済産業省が2020年に発表した報告書には、次のように定義されています。

顧客体験のみならず、顧客体験を継続的に実現するための組織と仕組みをデザインすることで新たな価値を創出するための⽅法論である

正直、この説明だけでは「結局、サービスデザインは何なの?」と感じる方も多いと思います。しかし、サービスデザインを理解することは、現代のビジネスにおいて避けては通れない道です。なぜなら、製品やサービスそのものではなく、それを通じた「体験」が競争の鍵となる時代だからです。

この記事では、この少し難解な定義を、初心者でも理解できるように分かりやすく解説します。また、サービスデザインがなぜ今重要なのか、そしてそれを実践することでどのような成果が得られるのか――その全体像をお伝えします。

あなたのビジネスや取り組みに新しい視点と可能性をもたらすヒントがきっと見つかるはずです。

人は幸せを感じる体験にお金を払う

私たちは、日常の中でさまざまな商品やサービスに触れています。

たとえば、スーパーで食料品を買う、アプリで映画を予約する、カフェでコーヒーを飲む…。これらすべての価値は、モノやサービスそのものだけでなく、それを取り巻く「体験」の積み重ねで成り立っています。

例えば、カフェでコーヒーを飲む人はたいていの場合、コーヒーの味だけを求めているわけではありません。リラックスしたい、非日常感を味わいたい、友人と楽しい時間を過ごしたい、そのような価値も求めてカフェを利用しています。

ですからコーヒーの味だけではなくて、カフェの雰囲気、カフェでの接客、友人とどんな話ができたのか、カフェを通してお客様が得た体験の質よってお客様の感じる価値が決まります。

では、お客様により高い価値を提供するために、どんな体験を提供すればよいのか?「体験」をより良くするために、モノやサービスの提供者は何ができるのでしょうか?

それがまさにサービスデザインの考え方です。

サービスデザインを一言で表すなら、「お客様がモノやサービスに触れるすべての瞬間を考え抜いて設計すること」です。

商品を選ぶ楽しさ、購入のスムーズさ、使った後の満足感。そのすべてをより良くするために、仕組みや運営方法までを含めて考えるのがサービスデザインの仕事です。

顧客体験はいつ始まり、どこで終わる?

商品やサービスの「体験」は、その商品やサービスを実際に使い始めてから始まるわけではありません。たとえば車の場合、次のような体験が積み重なります。

  • SNSやテレビ、広告などでその車を知る
  • ショールームで実物を見る
  • 試乗してみる
  • インターネットで口コミやレビューを確認する
  • 契約する
  • 納車される
  • 日々の運転、ドライブ旅行
  • メンテナンスを受ける
  • 次の車を考えるとき、過去の体験を思い出す

さらに、友人に車の話をする、SNSにドライブ旅行の写真を投稿するなど、間接的な体験も含まれます。顧客体験は、顧客が商品やサービスに出会う最初の瞬間から、すべての接点にわたって続くものなのです。

そのためサービスデザインでやるべきことは、単に商品やサービスそのものの魅力を向上させるだけにはとどまりません。

商品やサービスに関わる広告や宣伝、営業や接客活動、お客様サポートなど商品やサービスに関わる全ての活動に横断的に取り組んでいくことになります。

サービスデザインが求められる理由 

産業革命以前、「生活に必要なモノを入手すること」が非常に難しい時代が長く続きました。そのためモノづくり(生産活動)が価値を生み出す中心的な活動だったのです。

しかし、18世紀後半から19世紀初頭にかけておきた産業革命は、社会を一変させました。工場での大量生産が可能になり、モノが次々と市場に溢れ出したのです。

その結果どうなったでしょうか?需要と供給のバランスが崩れ、価格競争が激化しました。多くの職人が仕事を失い、「ただモノを作るだけ」では生き残れない時代が到来したのです。

そこで機能や性能とは異なる「デザイン」や「ブランド」という新たな価値で差別化を行う取り組みが始まり、デザインやマーケティングの分野が大きく発展します。

20世紀後半になると、先進国では生活に必要なモノがほぼ手に入るようになり、現代は「モノ余り」の時代に突入しました。

モノがあふれるようになった現代、ビジネスを成長させていくには「ユーザー自身が自覚していないようなニーズを発掘すること」「そのニーズに他社よりも効率的に、他社よりも洗練された顧客体験で応えること」がカギになります。

それゆえにデザインやマーケティングを発展させ、さらに価値を実現させるためのシステムや業務フロー、組織作りまでも一体として取り組む必要があります。

日本は、依然として技術力では世界トップレベルを維持しています。しかし、多くの産業で見られるのは「技術があっても市場での競争力を発揮できない」という現状です。その理由の一つは、「モノを作る」という従来の価値観から抜け出せていない点にあります。

日本の産業の将来は「ものづくり」から「価値づくり」へのシフトにかかっています。そしてこれを実現するためには、サービスデザインが重要なカギとなります。経済産業省がサービスデザインに注目しているのも、こうした背景があるからです。

サービスデザインの成功事例

EPSONやBenQ、Ankerなどの世界的な企業が競争を繰り広げている家庭用プロジェクターの中でミラアークという福岡のベンチャー企業が生み出したプロジェクターが注目を集めています。

この会社は「私たちのビジネスはプロジェクターを売るのではなく、お客様に”人生を変える1本に出会う”という体験価値を提供すること」と定義して商品設計 及び そのライフサイクル全体(広告、販売、お客様サポート)を設計しました。

映画ならではの感動体験を提供するために小型プロジェクターながら180インチの大画面と高い色再現性を実現。ユーザー視点に立って没入感を損なわないように機器の出す騒音にまでこだわりました。

さらに自社メディアでおすすめの映画やドラマの情報を発信したり、「CINEMAGEのある暮らし」をテーマに、プロジェクターを活用した豊かなライフスタイルをSNSで提案。このような取り組みによってミラアークのCINEMAGE miniは大ヒットし「VGP2023 Summer オーディオビジュアルアワード受賞」、「MONOQLO 2024ベストバイ オブ・ザ・イヤー受賞」など数々の賞を受賞しました。

サービスデザインの流れ

優れたサービスデザインはどのような手法で生み出されるのでしょうか?様々な方法論がありますが、ここではメジャーな方法を簡単に紹介します。

ペルソナ分析 ~顧客を深く知ることが、成功の第一歩~

優れた顧客体験をデザインするには、まず顧客を深く理解することが欠かせません。そのために使われるのが「ペルソナ」という手法です。

ペルソナとは、理想的な顧客像を具体的に描き出した仮想の人物像のことです。たとえば、その人が普段どんなことを考え、何に価値を感じ、どのような日常を送っているのかを細かく想像します。具体的であればあるほど、顧客の視点に立ったデザインが可能になります。

ペルソナの例

カスタマージャーニー ~顧客体験をバラバラに考えない~

ペルソナが定まったら、次はカスタマージャーニー(Customer Journey)を考えます。

カスタマージャーニーは、顧客が製品やサービスに関心を持ち、それを購入し、利用し続けるまでの一連のプロセスや体験を指します。製品やサービスに加えて、広告やお客さまサポートなど企業と顧客が関わる機会(タッチポイント)を洗い出し、タッチポイント通じてブランドや商品と関わった顧客がどのような感情を抱き、どのような行動を取るかを視覚化します。

カスタマージャーニーを考えるうえで重要なのは「全てのタッチポイントは顧客体験のために連携している必要がある」ということです。

そこでカスタマージャーニーの作成にあたっては、まず初めにカスタマージャーニー全体のゴールを明確にします。ゴールとは顧客がカスタマージャーニーという旅を経た結果、どんな変化をもたらしたいのか?私たちの商品やサービス、ブランドに対してどんな感情を持ってもらいたいのか?顧客にどんな行動をとってもらいたいのか?です。

次に商品やサービスに関わる顧客体験を以下のステージに分けて、ゴールを達成するために各ステージでどんなタッチポイント(例:広告、営業、サポート)によって、顧客からどのような感情を引き出し、顧客にどのような行動をとってもらうか整理します。

認知(Awareness)
顧客が問題やニーズに気づき、解決策としてブランドや商品を認知する段階。

興味・検討(Consideration)
顧客が情報収集を行い、複数の選択肢を比較検討する段階。

購入(Purchase)
顧客が意思決定を行い、商品やサービスを購入する段階。

利用(Use)
購入後に商品やサービスを実際に使用し、体験する段階。

リピート・ロイヤルティ(Loyalty)
商品やサービスに満足し、再購入したりブランドに対する信頼や忠誠心を持つ段階。

推奨(Advocacy)
顧客が満足した体験を他人に共有し、ブランドを推奨する段階。

カスタマ―ジャーニーの例(認知~購入まで抜粋)

サービスブループリント ~カスタマージャーニーの実現方法を考える~

カスタマージャーニーができたら、それをもとにサービスブループリント(Service Blueprint)を検討します。

Blueprintは日本語に訳すと「設計図」のことで、その名の通りサービス全体の設計図です。サービスを提供する際のプロセスを詳細に可視化した図表で、顧客体験や内部業務の流れを整理するために使用されます。サービスデザインのツールの一つであり、顧客の視点と企業の内部プロセスの両方を同時に分析・改善するために役立ちます。

サービスブループリントには以下の内容を記載していきます。

顧客行動

顧客がサービスを利用する際に行う具体的な行動を示します。

フロントステージ

顧客が直接目にする、または体験するスタッフやシステムの活動(例:受付スタッフの対応、ウェブサイト)を示します。カスタマージャーニーのタッチポイントがこれにあたります。

バックステージ

顧客が直接目にしないが、フロントステージを支えるスタッフやシステムの活動を示します。
(例:倉庫での在庫管理、システムのデータ処理)

サポートプロセス

サービス提供のために連携が必要な他システムを指します。(例:在庫管理システム、決済システム、配送システム)

サービスデザイン成功のポイントはアジャイル(Agile)

サービスデザイン成功のカギは、顧客インサイトを掴むことです。顧客インサイトとは、顧客自身が自覚していない深層的なニーズや行動の背景にある動機を指します。しかし、これを見つけるのは簡単ではありません。

このような深層的なニーズを明らかにするために最も効果的なのが、お客様による評価と改善を繰り返しながら商品やサービスを作り上げていくAgile開発の反復的アプローチです。

Agile開発では、とにかく必要最小限の価値を提供できる商品やサービス(MVP:Minimum Viable Product)を作り、顧客からフィードバックを得て改善を進めます。

たとえば、新しく自社商品のネット直販を始める場合、最初から完全なシステムを構築するのではなく、在庫管理や顧客管理、商品発送はすべて手作業でおこなうこととし、商品紹介とお申し込み機能だけを持つWebサイトを構築して事業を始めるのもMVPの一例です。これにより、早期に&少ない投資で実際の商品やサービスに対するお客様の反応を調査することができ、顧客に対する理解を深めることができます。また時間やお金をかけて商品やサービスを作りこんでしまった後にユーザーニーズとズレていることが発覚して大幅な手戻りが発生してしまうような事態を回避できます。

またサービスデザインを成功させるには、技術、デザイン、マーケティング、オペレーションなど、幅広い分野の知見を統合することが欠かせません。本説明では割愛しますがAgileには、多職種のメンバーが一つのチームとして協力する仕組みが組み込まれており、自然と共働性を実現できます。これにより、顧客体験だけでなく、その裏側の仕組みまで含めた質の高いサービスが生まれるのです。

まとめ:サービスデザインの6原則

最後に、まとめとしてサービスデザインの6原則を紹介します。

1. 人間中心であること

お客様と商品やサービスの影響を受けるすべての⼈(商品やサービスを販売する代理店など)の体験を重視します。ペルソナ分析などによって顧客を深く理解し、カスタマージャーニーなどのよって顧客にどんな体験を提供するのか考え抜きます。

2. 共働的であること
サービスデザインは顧客体験(UX)を考えるだけでななく、それを実現するための最適な仕組みづくりまで行います。この仕組み作りには様々な専門分野の知見が必要であり、Agileなどの手法を活用して多様な背景や役割を持つステークホルダーが積極的にサービスデザインに関与する体制を構築します。

3. 反復的であること
サービスデザイン成功のカギは真に顧客を理解し、深層的なニーズを明らかにし、それに基づいて商品やサービスの細部まで考え抜くことです。そこで重要なのは最初から完全な商品やサービス、それにかかわる仕組みを一気に作るのではなく、お客様による評価と改善を繰り返しながら作り上げていくAgile開発の反復的アプローチです。

4. 連続的であること
全てのタッチポイントは顧客体験のために連携している必要があります。お客様に対して価値ある体験を提供するためにカスタマージャーニーをまとめます。またそれを実現するすべての仕組みも連携している必要があります。そのためサービスブループリントで顧客体験とそれを実現するためのすべての仕組みの連携を整理します。

5. リアルであること
実物を体験することで初めて気づくことが多くあります。そのため机上で作り上げたペルソナ、カスタマージャーニー、サービスブループリントをもとに商品やサービス、それにかかわる仕組みを作ってはいけません。必要最小限で構わないのでちゃんとプロトタイプを作り、実際の顧客の評価を確認しながら作り上げていくことが重要です。

6. ホリスティック(全体的)な視点
サービスはサービス全体、企業全体のすべてのステークホルダーのニーズに持続的に対応する
ものでなければならない。